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ここまでのページでは日本語のプロソディーについて見てきました。このページでは、英語のプロソディーについて扱います。

強勢

英語の強勢

英語のプロソディーにおいては、「強勢」(ストレス; stress)が重要な役割を果たしています。強勢とは何かは下で詳しく述べますが、ここではひとまず、単語の中でプロソディー的に特に際立って発音される音節と定義しておくことにしましょう。

問題:英語の強勢

以下の英単語にはどの音節に強勢がおかれるか、答えなさい。

  • tiger
  • phonetics
  • permit (名詞の場合)
  • permit (動詞の場合)

以下では強勢のある音節を大文字で示します。

  • TIger
  • phoNEtics
  • PERmit (名詞の場合)
  • perMIT (動詞の場合)

英語において、強勢の位置は単語ごとに決まっています。ただし、そこにはある程度の法則性があります(この法則性については、このページでは説明しません)。Permitの例のように、品詞によって強勢の位置が変わる単語もあります。

強勢のIPA表記

強勢は国際音声記号(IPA)では [ˈ] という記号であらわされます。例えば phonetics という単語のIPA表記に強勢の記号をつけると次のようになります。

[fəˈnɛtɪks]

なお、英語の辞書などではしばしば次のように表記されることがあります。

[fənɛ́tɪks]

しかし、この表記はIPAの方式ではありません。ここで [ɛ] の上に付されている記号は、IPAでは声調を表すために用いられます。

主強勢と副次強勢

英語では単語が長くなると、一つの単語の中に複数の強勢が現れることがあります。このとき、特に際立った音節は一つで、それ以外は際立つ程度がやや弱くなります。最も際立った強勢は主強勢(primary stress)と呼ばれ、それ以外の強勢は副次強勢(secondary stress)と呼ばれます。

IPAでは、主強勢は上で述べた [ˈ] という記号であらわされ、副次強勢は [ˌ] という記号であらわされます。例えば、phonetician(音声学者)という単語をIPAで表記すると次のようになります。

[ˌfoʊnəˈtɪʃən]

なお、英語の辞書などではしばしば次のように表記されることもありますが、これもやはりIPA式ではありません。

[fòʊnətɪ́ʃən]

強勢はどのような音声的特徴を持つのか

上で強勢を「単語の中でプロソディー的に特に際立って発音される音節」と定義しましたが、ここで「際立った」というのは抽象的です。実際には英語の強勢はどのような音声的特徴を伴って発音されるのでしょうか。

英語の強勢についての古典的研究である Fry (1958) は、強勢の知覚に長さ、強さ、ピッチが関わることを明らかにし、特に「ピッチ>長さ>強さ」という順で強勢知覚の手がかりになることを明らかにしました。しかし、後の様々な研究者の研究で、ピッチは強勢の本質的な特徴ではなく、強勢に付随して現れるイントネーションの特徴だということが指摘されるようになりました(詳しくは後述。なお、これについての詳しい解説は、Ladd 2008 の2.2.1節においてなされています)。

一方で、英語の強勢には、その有無によって母音の音質が大きく異なるという特徴もあります。

さて、英語以外の言語についてはどうでしょうか?強勢の音声的な実現の仕方は、言語によって異なります。言語によって強勢の現れ方がどう異なるか、そしてそのような言語間の差異を超えて強勢を理論上どう位置付けるかについては、別のページで扱います。

イントネーション

ここからは英語のイントネーションについて見ていきます。なお、ここで言及する「サンプル音声」は、以下に示す Ladd (2008) の音声資料ページからダウンロードできるものを指します。

  • Ladd (2008) の音声資料のページ
    ※Resourcesのタブをクリックし、該当する音声ファイル(以下の解説では [] で示します)を探してダウンロードしてください。

強勢のピッチは高いとは限らない

ここではまず、英語において強勢がおかれた音節のピッチは高くなるのかという問いについて考えていきます。

Permitという単語が名詞(「許可証」)として発音された場合と動詞(「許可する」)として発音された場合を例にとって考えましょう。これらを単語単独で発音した場合のサンプル音声[ (2.3) a. permit (noun)、(2.3) b. permit (verb)]をもとにf0曲線を描かせると、次のようになります。

permit (名詞)のf0曲線
(もとの音声はLadd 2008 のResourcesより [(2.3) a. permit (noun)])
permit (動詞)のf0曲線
(もとの音声はLadd 2008 のResourcesより [(2.3) b. permit (verb)])

これらを聞き比べてみると、確かに名詞では第一音節のピッチが高く、動詞では第二音節のピッチが高く発音されています。このピッチの特徴は、上のf0曲線からも確認できます。

では、次の文ではどうでしょうか?(ここでは told 「言った」にフォーカスをおいた発話を想定してください。)

(1) I told you the permit had expired!

「許可証の期限が切れていると言ったでしょ!」

“I told you the permit had expired!” のf0曲線
(もとの音声はLadd 2008 のResourcesより [(2.5) a. I TOLD you the permit had expired!])

サンプル音声[(2.5) a. I TOLD you the permit had expired!]

ここでは told の部分が高くなり、その後のピッチはずっと低めに続きます。一方で、permit の第一音節の強勢が消えたわけではありません。

また、次の例を考えてみましょう。(サンプル音声[(Fig 3.4a) Wonderful、(Fig 3.4b) Wonderful])

(2) Wonderful.

「素晴らしい。」

“Wonderful.” のf0曲線(パターン1)
(もとの音声はLadd 2008 のResourcesより [(Fig 3.4a) Wonderful])
“Wonderful.” のf0曲線(パターン2)
(もとの音声はLadd 2008 のResourcesより [(Fig 3.4b) Wonderful])

一つ目のサンプル音声では第一音節が高いのに対し、二つ目のサンプル音声では第二音節が高くなっています。しかし、いずれの発音においても強勢は第一音節に置かれています(そのことは、母音の音質や長さ、強さの特徴からわかります)。なお、意味的には、前者が普通の平叙文なのに対し、後者は強調を伴う平叙文です。

ここまでの例が示すのは、英語において強勢のピッチが高くなることは多いが、常にそうなるわけでもないということです。

強勢とピッチアクセント

上で見てきた現象は、どう解釈すればいいのでしょうか?英語のイントネーション研究では、様々な理論が提案されてきました。ここでは、Pierrehumbert (1980) に代表される理論(Ladd 1996/2008はこれを autosegmental-metrical (AM) theory と呼んでいます。以下ではAM理論と呼ぶことにします)を中心にして説明していきます。

この理論では、強勢にあらわれるピッチの特徴は、強勢の上にピッチアクセント(pitch accent)が載ったものだと捉えます(なお、ここでの「アクセント」は日本語のアクセント論に出てくる「アクセント」とは用語の意味がかなり異なります。詳しくは後述します)。ただし、文中の全ての強勢にピッチアクセントが置かれるとは限りません。強勢はピッチアクセントを置きうる候補となるが、実際にそこにピッチアクセントが置かれるかどうかには、発話の意味が関わります。例えば、(1) には TOLD, PERmit, exPIRED という三つの強勢がありますが、told にフォーカスが置かれているこの発話において、ピッチアクセントは TOLD のみに置かれていると解釈されます。PERmitとexPIREDは、強勢はあるがピッチアクセントは置かれていないと解釈されます。

英語において、ピッチアクセントは一種類ではありません。強勢で高くなるというピッチパターンを持つピッチアクセントのほかに、例えば強勢音節のピッチを積極的に低め、その後ろを高くするというピッチアクセントもあります。(2) の二通りの “Wonderful.” において、一つ目のサンプル音声は前者、二つ目のサンプルは後者が実現したものと解釈されます。

AM理論の諸研究の中でも、英語に何種類のピッチアクセントがあるかは議論があります。AM理論のもとになったPierrehumbert (1980) は英語に7種類のピッチアクセントを認めていますが、研究者によってはより少なく設定する立場もあります(例えば、前述の “Wonderful.” の2種類の音調について、異なる二つのピッチアクセントとみなす立場もあれば、同じピッチアクセントの変種だとみなす立場もあります。詳しくは、Ladd 2008 の3.1.3節および4.2節参照)。なお、発話の中でどのピッチアクセントが用いられるかは、発話の意味とかかわります。

ここまでを整理すると、英語においては、ピッチアクセントをどの強勢におくか、および、どのピッチアクセントを用いるかが、発話の意味とかかわっているということになります。

「ピッチアクセント」という用語をめぐって

上での「ピッチアクセント」という用語には注意が必要です。前のページまでの日本語のプロソディーの解説では、日本の言語学における一般的な用語の使い方にならい、単語レベルのプロソディー現象の総称を「アクセント」と呼んできました。そこでは語レベルの「アクセント」は文レベルの「イントネーション」と区別されます。語レベルの「アクセント」がピッチによってもっぱら実現される場合、これを「ピッチアクセント」と呼ぶことがあります。この場合の「ピッチアクセント」は、上でのAM理論における「ピッチアクセント」とは大きく異なります。

AM理論に限らず、アメリカのプロソディー研究ではしばしば、強勢の上に実現され、文・発話レベルの意味にかかわるピッチの特徴を「(ピッチ)アクセント」と呼びます。この場合のアクセントは、イントネーションの構成要素を成すことになります。

なお、AM理論的な意味での「ピッチアクセント」という用語をふまえて日本語の現象を捉え直した場合に、「語彙的ピッチアクセント」(lexical pitch accent)という用語が使われることがあります。これは日本のアクセント論における「アクセント核」とほぼ同義です。

ピッチアクセント以外のイントネーションの構成要素

AM理論において、英語のイントネーションの構成要素はピッチアクセントだけではありません。他には、境界音調(boundary tone)と句アクセント(phrase accent)があります。境界音調は日本語の文末イントネーションのページで説明したのと同様で、句末・文末にあらわれる音調です。一方、句アクセントは、ピッチアクセントと境界音調の間の音調を決めるのに関与するものです。ここでは、これらについて詳しくは立ち入りません。

日本語と比べたときの英語のイントネーションの特徴の一つは、上昇や下降といった音調が広い範囲の中で実現されうるという点にあります。例えば、日本語で疑問における上昇調は、文の末尾のモーラ・音節の上昇調として実現されます。しかし英語では例えば、次のようなイントネーションが観察されることがあります。

“Marianna made the marmalede?” のf0曲線(音声はMIT OCWより)

Marianna made the marmalade?

「マリアンナがマーマレードを作ったの?」

※音声は Transcribing Prosodic Structure of Spoken Utterances with ToBI (Veilleux, Shattuck-Hufnagel & Brugos, MIT OpenCourseWare) におけるChapter 2.3の4番目のサンプル音声より

ここでは、MariANna の強勢音節でf0が最も低まり、そこから文末に向けて上昇していっています。これをAM理論で解釈すると、Marianna の強勢音節に低いピッチアクセントがおかれ、MADEとMARmaladeにはピッチアクセントが置かれず、文末には高い句アクセントと高い境界音調の複合体が置かれていると解釈されます。上のf0曲線の特徴は、低いピッチアクセントの後で上昇して高く保たれ(高い句アクセント)、文末でさらに上昇する(高い境界音調)のだと捉えられます。

他の理論的立場

AM理論はアメリカで広まった理論ですが、イギリスでは伝統的に、AM理論とは異なるイントネーションの捉え方をしてきました。イギリスのイントネーション論の古典的著作としては O’Connor & Arnold (1973)、入門的な著作としては Cruttenden (1997) や Wells (2006) を挙げることができます。

日本語母語話者の英語のイントネーション

ここまで英語のプロソディーの基本的な特徴を見てきました。では、日本語を母語とする英語学習者はどうでしょうか?英語母語話者と同じようなプロソディーの特徴を示すのでしょうか?

この問いのもとで行われた研究の一つとして、ここでは Ueyama & Jun (1998) を取り上げます。この研究によれば、日本語を母語とする英語学習者において、英語の習熟度が低いほど、フォーカスのおかれた強勢だけでなくその後ろの複数の強勢にもピッチアクセントが置かれるという傾向が見られました。これは、フォーカスをおいたとき、それよりも後ろの強勢にはピッチアクセントが置かれなくなるという英語母語話者の発音の特徴と異なっていました。つまり、習熟度の低い学習者はピッチの山を作りすぎていたということです。(なお、この論文では上級学習者や韓国語を母語とする学習者の発音も分析していますが、ここでは説明を省略します。)

参照文献

Cruttenden, A. (1997). Intonation (2nd ed.). Cambridge University Press. [Amazonリンク]

Fry, D. B. (1958). Experiments in the perception of stress. Language and Speech, 1(2), 126–152. [論文リンク]

Ladd, D. R. (1996). Intonational phonology. Cambridge University Press.

Ladd, D. R. (2008). Intonational phonology (2nd ed.). Cambridge University Press. [Amazonリンク]

O’Connor, J. D., & Arnold, G. F. (1973). Intonation of colloquial English: A practical handbook (2nd ed.). Longman. 日本語訳:J.D. オコナー・G.F. アーノルド 著、片山嘉雄・長瀬慶來・長瀬恵美 訳 (1994) 『イギリス英語のイントネーション』南雲堂. [Amazonリンク]

Pierrehumbert, J. B. (1980). The phonology and phonetics of English intonation [Doctoral dissertation, Massachusetts Institute of Technology].

Ueyama, M., & Jun, S.-A. (1998). Focus realization in Japanese English and Korean English intonation. In N. Akatsuka, H. Hoji, S. Iwasaki, S.-O. Sohn, & S. Strauss (Eds.), Japanese/Korean linguistics (Vol. 7, pp. 629–645). CSLI Publications. [論文リンク]

Wells, J. C. (2006). English intonation: An introduction. Cambridge University Press. 日本語訳:J.C. ウェルズ 著、長瀬慶來 監訳(2009)『英語のイントネーション』研究社. [Amazonリンク]