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音節(1):まずは大雑把に理解するところから

音節」(syllable)という用語は、おそらく多くの人がすでに耳にしたことがあり、また何となく理解しているのではないかと思います。音節の定義については後でみていくことにして、まずは以下の英語の例をみて、それぞれの単語が何音節かを考えてみてください。

以下の英単語はそれぞれ何音節でしょうか?

tree, cat, mouse, penguin, orange, banana, peach, phonetics, phonology

答えは次のようになります。

  • cat: 1
  • mouse: 1
  • penguin: 2
  • orange: 2
  • banana: 3
  • peach: 1
  • phonetics: 3
  • phonology: 4

次に日本語について考えてみましょう。以下の日本語の単語はそれぞれ何音節でしょうか?

以下の日本語の単語はそれぞれ何音節でしょうか?

木, ネコ, ネズミ, ペンギン, みかん, バナナ, 桃, 音声学, 音韻論

答えは次のようになります。

  • 木(き):1
  • ネコ:2
  • ネズミ:3
  • ペンギン:2
  • みかん:2
  • バナナ:3
  • 桃(もも):2
  • 音声学(おんせいがく):4
  • 音韻論(おんいんろん):3

ここまでの例をみると、音節は母音を中心とした音の塊の言えそうです。ただし、これは実は正確ではありません。音節の厳密に定義することは言語学において容易ではないのですが、後でもう少し詳しく見ていくことにします。

モーラ

上の日本語の例で、「ペンギン」、「みかん」、「音声学」、「音韻論」の音節数がそれぞれ2, 2, 4, 3とカウントされることに疑問を持った人もいるかもしれません。直感的に、これらはそれぞれ4, 3, 6, 6の塊からなると感じるかもしれません。

音の塊の単位には、音節のほかにモーラ(mora)と呼ばれるものもあります。日本語で「拍」と訳されることもあります。日本語の分析において、促音(「ッ」)、撥音(「ン」)、長音(「ー」)はそれぞれ、独立したモーラとみなされます(なお、これら促音・撥音・長音は「特殊拍」と呼ばれることがあります)。

以下に例として、特殊拍を含む単語とそのモーラ数を示します。

特殊拍を含む単語のモーラ数

  • ペンギン:4
  • みかん:3
  • 音声学(おんせいがく):6
  • 音韻論(おんいんろん):6
  • 切手(きって):3
  • 教室(きょうしつ):4
  • インターネット:7

なお、「音声学」(おんせいがく)の「せい」や「教室」(きょうしつ)の「きょう」は、仮名表記では「い」や「う」が現れますが、実際の発音は長音とみなすことができます。

音節(2):音節の定義と「聞こえ度」

上では「音節」を「母音を中心とした音の塊」と暫定的に定義しました。しかし、英語の次の例はどうでしょうか?

英単語の例

little, rhythm, chasm

これらの単語はいずれも、母音は一つしかありません。しかし、これらの単語は一般に、2音節とみなされてきました。

音節の定義をめぐっては、言語学において様々な議論がなされてきました。今もなお、音節の定義は確立しているとは言えません。その中で、一つの定義の仕方として、sonority によるアプローチを紹介します。Sonorityは日本語では「聞こえ度」や「聞こえ」と訳されることがあり、ここでは「聞こえ度」と呼ぶことにします。

聞こえ度」(sonority)についての一つの定義は、「同じ長さ、強勢、ピッチを持つほかの音と比較したその音の音量」というものです(ラディフォギッド 1999: 295)。ただし、これは物理的な定義の仕方であり、音節をめぐる多くの議論においては、物理的・生理的な特徴をふまえつつも、より抽象的で音韻論的なレベルで定義しようとしています。そのような音韻論的なアプローチでは、例えば以下のように、音の種類をランク付けるものとして聞こえを捉えています。(なお、聞こえ度のランク付けにも様々な考え方があります。以下は Clememts 1990 に拠っています。Clements 1990 の聞こえ度のランク付けは音韻論における「素性理論」と深くかかわっていますが、ここでは立ち入らないことにします。)

阻害音 < 鼻音 < 流音 < わたり音 < 母音

用語についての補足

上記は音韻論における音の分類であるため、用語になじみのない読者もいるかもしれません。「阻害音」(obstruent)は破裂音摩擦音破擦音などを指します。「流音」(liquid)はLやRで綴られる音の総称です(例えば、英語の /l/, /r/ や日本語のラ行音の子音がここに含まれます)。わたり音は、例えば日本語の「キャ」 /kja/ の /j/ や朝鮮・韓国語の 과 /kwa/ の /w/ などが該当します。

このような聞こえ度の階層に基づき、単語を構成する各音素の聞こえを点数化します(例えば阻害音は0、母音は4)。そして、各単語について、音素を横軸に配列し、聞こえ度の点数を縦軸にとって図にすると、次のようになります。

英語の penguin /peŋɡwin/, little /lɪtl/, 日本語の「みかん」/mikaɴ/ の聞こえ度

音節は、このように聞こえ度にもとづいて図を描いたときの山と定義することができます。そして、ピークの数が音節数となります。

もちろん、上でも述べたように、言語学における「音節」の捉え方は確立されているわけではなく、ここで述べた「聞こえ度」による捉え方は有力な捉え方の一つに過ぎないことに、留意が必要です。

IPAにおける音節の表記

IPA(国際音声記号)において音節境界は常に表記しなければならないわけではありませんが、音節境界を明示的に示したい場合はドット [.] を用います。例えば、英語のreactという単語の発音について音節境界をつけて表記するならば [ɹɪ.ækt] となります。

学習案内

Goldsmith, J. (2011). The Syllable. In The Handbook of Phonological Theory, second edition (eds J. Goldsmith, J. Riggle and A.C.L. Yu).
https://doi.org/10.1002/9781444343069.ch6 [Amazonリンク]
[音節をめぐる研究史の解説]

窪薗晴夫・本間猛 (2002) 『音節とモーラ』研究社. [Amazonリンク]

参照文献

Clements, G. N. (1990). The role of the sonority cycle in core syllabification. Papers in laboratory phonology1, 283-333. [Amazonリンク]

ラディフォギッド, P., 竹林滋・牧野武彦 共訳 (1999) 『音声学概説』大修館書店. [Amazonリンク]