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前のページでは摩擦音の摩擦音の調音位置とかかわる音響的特徴を学びました。今回は有声摩擦音の音響的特徴,および,摩擦音と破擦音の音響的差異について学びます。

有声摩擦音の音響的特徴

まず,サンプルファイル su_zu.wav をダウンロードし,Praatで開いてみてください。

ここには「ス」と「ズ」の発音が含まれています(ただし,後述するように日本語の「ズ」の子音は摩擦音で現れることもあれば破擦音で現れることもあります。ここでは意図的に摩擦音で発音しています)。このファイルのスペクトログラムを見てみて,摩擦音がどのような特徴を持つか観察してみましょう。

上図の二つの発話の子音部分のスペクトログラムを比べると,右(「ズ」)では高周波数域のみならず低周波数域にもエネルギーが分布していることがわかると思います。

無声摩擦音と無声破擦音

次に,破擦音の音響的特徴を見ていきましょう。まず以下のサンプルファイルをダウンロードし,Praatで開いてみましょう。

※サンプルファイルの初頭部分はノイズが目立つため,ここでは真ん中の二つのトークンのスペクトログラムを表示させています。

右の「ツ」のスペクトログラムを見ると,最初に(破裂音に観察されたのと同様の)縦の筋が見えます。これは破擦音における破裂の瞬間を反映した特徴です。また,「ス」と「ツ」の子音部分を比べると,長さや(音声波形上の)立ち上がりにも違いがみられます。摩擦音は長くて立ち上がりが緩やかなのに対し,破擦音は短くて立ち上がりが急です。

次に,語中の摩擦音と破擦音を見ていきましょう。以下のサンプルファイルをダウンロードしてください。

両者を比べると,右「ウツ」では最初の母音の直後に無音区間が見られることがわかると思います。これは破擦音における閉鎖区間を反映しています。破擦音は摩擦音と異なり閉鎖を伴いますが,語中環境においてはその閉鎖区間をはっきりと観察することができます。

有声摩擦音と有声破擦音

日本語のザ行音は摩擦音で現れることもあれば,破擦音で現れることもあります。以下のサンプルファイルは「ウズ」を何回か発音してみたもので,摩擦音で発音したものもあれば破擦音で発音したものもあります。聞いてみて,どれが摩擦音でどれが破擦音かわかるでしょうか?また,スペクトログラム上で両者を見分けることができるでしょうか?

以下はこのサンプルファイルの真ん中の二つのトークンについて,スペクトログラムを表示させたものです。

左が有声摩擦音で,右が有声破擦音です。無声破擦音と同様,有声破擦音も語中ではっきりと閉鎖区間が観察されます。ただし,閉鎖区間中でも(区間全体に,または部分的に)声帯が振動しているので,低周波域にエネルギーの分布が見られます。

日本語のザ行音が摩擦音か破擦音かについては,音環境が大きくかかわっています。語頭だと破擦音になりがちで語中だと摩擦音になりがちだと,よく言われてきました。Maekawa (2010) はこれについて詳しく分析し,特定の音環境であっても必ずどちらかの発音になるというわけではないこと,そして,音環境を細かく分類していくと,それによって傾向が少しずつ違ってくることを明らかにしました。

参照文献

Maekawa, K. (2010). Coarticulatory reinterpretation of allophonic variation: Corpus-based analysis of/z/in spontaneous Japanese. Journal of Phonetics, 38(3), 360-374. [論文リンク]

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