はじめに
これまでに長さとピッチ(高さ)に対応する物理的特徴として持続時間と基本周波数(fo)をみてきました。今回は,大きさ(loudness)に対応する物理的特徴をみていきます。大きさに対応する物理的特徴は,物理的強度またはインテンシティ(intensity)と呼ばれます。
Praatによるインテンシティの分析
英語の強勢の実現にはインテンシティ,持続時間,母音の音質がかかわると言われています。ここでは,強勢がおかれた音節とおかれていない音節のインテンシティを比較してみましょう。
まず,以下のサイト(Ladd 2008 の補足資料)から二つの音声ファイルをダウンロードしましょう。
- Intonational Phonology: Resources > (2.3) a. permit (noun) と (2.3) b. permit (verb) をダウンロード
※ページの左に表示されているTypeから Sound files – Chapter 02 にチェックを入れると探しやすいです。
Praatでインテンシティを分析するには様々な方法があります。最も簡単な方法は,これまでにもよく使ったSoundEditorを用いるものです。先ほど読み込んだSoundオブジェクトについて,SoundEditorを開いてみましょう。インテンシティは緑の線で表示されます。もし緑の線が表示されていなかったら,上部メニューからIntensityを選び,Show Intensityにチェックを入れます。

さて,二つのファイルのインテンシティを表示させると下のようになります。


いずれも第一音節を選択した状態で示しています。一つ目の図(名詞,第一音節に強勢)ではインテンシティのピークが第一音節にあるのに対し,二つ目の図(動詞,第二音節に強勢)ではインテンシティのピークが第二音節にあることがわかります。
なお,インテンシティの値はスペクトログラムの右に緑の字で表示されています。二つの図に示されている値 79.68 dB および 69.42 dB は,それぞれの選択区間における平均インテンシティです。
Microprosody
持続時間やfoのところで述べた microprosody,つまり分節音の影響はインテンシティに関しても存在します。代表的なのが,母音の影響としての intrinsic vowel intensity です。同一条件下では、母音の開口度が広い(舌の最高点が低い)ほどインテンシティは強くなる傾向にあります(Lehiste 1970, Beckman 1986 参照)。
このほか、子音も様々なかたちでインテンシティに影響することが知られています。分節音によるインテンシティへの影響はかなり顕著なので、インテンシティを分析する際には特に慎重さが求められます。
参照文献
Beckman, M.E. (1986) Stress and non-stress accent. Dordrecht: Foris. [Amazonリンク]
Ladd, D. Robert (2008) Intonational phonology, second edition. Cambridge: Cambridge University Press. [Amazonリンク]
Lehiste, I. (1970) Suprasegmentals. Cambridge, MA: MIT Press. [Amazonリンク]