前のページでは、Praatで母音のフォルマントを測定する方法を学びました。このページでは、母音連続、ヤ行音([j] + 母音)の分析を学びます。
母音連続
前回の母音のフォルマントを分析するときに用いた音声は,「イ,エ,ア,オ,ウ」を,母音間にポーズをおいて発音したものでした。では,「イエアオウ」をつづけて発音したらどうなるでしょうか?以下の二つのファイルをダウンロードして,スペクトログラム上で比べてみましょう。
それぞれのスペクトログラムを表示させると,次のようになります。


ポーズをおいた「イエアオウ」(上の1番目の図)では,それぞれの母音の区間内でフォルマントはほぼ安定しています。これに対し,ポーズのない母音連続の「イエアオウ」(上の2番目の図)においては,「イ」から「エ」へ,「エ」から「ア」へと,フォルマントが連続的に遷移していくのがわかると思います。
私たちが単語や文を発音したり,聞いたり,あるいはそれらをIPAで表記したりする際にはなかなか意識しないことですが,発話中の連続する単音と単音の間には,(それが人工的に合成されたものではなく自然に発話されたものである限り)必ず遷移区間があります。
「イエアオウ」の発話中の様々な区間を指定して,どのように聞こえるか確認してみましょう。
ヤ行音
今度は,「イア」と「ヤ」のスペクトログラムを比べてみましょう。
まず,「イア」のスペクトログラムを以下に示します。なお,ここでは説明の便宜上,TextGridもつけて表示させています。PraatのTextGridという機能については,別のページで説明します。

先ほどの「イエアオウ」と同様に,母音と母音の間に遷移区間が観察されます。第一フォルマントについては,「イ」は低く「ア」はそれより相対的に高いので,「イア」の遷移区間で第一フォルマントは上昇します。一方,第二フォルマントについては,「イ」は高く「ア」はそれより相対的に低いので,「イア」の遷移区間で第二フォルマントは下降します。
次に「ヤ」のスペクトログラムをみてみましょう。

これをみると,「ヤ」のスペクトログラムは「イア」の「イ」をとって遷移区間から「ア」の部分を残したのと同じような現れ方をしていることがわかると思います。実際,「イア」の遷移区間~アの部分のみを選択して再生してみると,「ヤ」のように聞こえるはずです。
「ヤ」の子音部分(IPAで表記すると [j]。接近音の一種です。)は,「イア」における遷移区間と同じ特徴を持っています。