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ここまでのページでは、日本語のプロソディーの特徴を単語や文節(※)のレベルで見てきました(東京式アクセント、諸方言のアクセント)。このページでは、より大きいレベルでの日本語のプロソディーの特徴を見ていきます。なお、ここでは、特に断らない限り、東京方言・首都圏方言における特徴を見ていきます。

※なお、文節の定義についても議論がありますが、ここでは文節の厳密な定義には立ち入りません。名詞に助詞を付加したものは文節と呼びうるということだけを押さえておき、以下の話を進めます。

句頭の音調

東京式アクセントの解説において、(頭高型を除けば)第一モーラから第二モーラにかけて基本周波数(fo)の上昇が現れると書きました。では、次の例ではどうでしょうか?

  • あの豆が
  • 甘い豆が ※「甘い」(アマイ)は平板型でも頭高型でも発音されえますが、ここでは平板型で発音された場合を想定しています。

これらのfo曲線を示したのが以下の図です。比較のため、修飾語をつけない「豆が」も併せて示しています。

豆が(マメガ)

あの豆が(アノマメガ)

甘い豆が(アマイマメガ)

これらの例をみると、上昇は単語(この場合、「豆」)の第一モーラから第二モーラで生じるのではなく、より大きなまとまりにおける第一モーラから第二モーラで生じているのだということがわかります。

次に、以下の例をみてみましょう。

あの豆が(アノマメガ)

甘い豆が(アマイマメガ)

先ほどと同じ文節の連鎖ですが、上の二つの例では、上昇が2回生じています。これらの発音をその前の上昇が一つだけの発音と聞き比べると、意味的にも何か違いがあると言えそうです。

音調句・アクセント句

日本語(東京方言)において句頭の上昇によって特徴づけられるプロソディー上のまとまりを、川上蓁は「句」と呼びました(例えば,川上 1957, 1961)。これはのちの研究では「音調句」とも呼ばれています(上野 2002: 166)。

一方、Pierrehumbert and Beckman (1988) は、同様のプロソディー上のまとまりを accentual phrase (アクセント句)と呼びました。ただし、音調句とアクセント句は句頭の上昇によって特徴づけられるまとまりという点では共通していますが、他の面(このページでは詳しく説明しないが、たとえばダウンステップの扱いなど)では相違をみせるため、注意が必要です。

川上やPierrehumbert and Beckmanの考え方に則るならば、東京式アクセントで単語単独で発音したとき(例えば,単独で「名古屋大学」(ナゴヤダイガク)」と発音したとき)には単語と(音調/アクセント)句が一致し、そこで現れる初頭の上昇(「ナ」から「ゴ」の上昇)は、単語のアクセントの特性ではなく、(音調/アクセント)句の初頭に現れる特性だということになります。(一方で、「ダ」から「イ」にかけての下降はアクセント核によって引き起こされるものであり、語レベルの特性ということになります。)

なお、川上やPierrehumbert and Beckmanとは異なる見解もあります。例えば、郡(2004)は上昇を含めてアクセントとみなしており(つまり、上昇も語レベルの特性の一部とみなしており)、それがときに弱化する(上昇に関していえば、弱化することでフラットになる)と考えます。郡も(音調)句という概念を用いており、それが指すものは表面的には川上と同じだと思われますが、上昇の生起・非生起のメカニズムについての説明が川上と異なります。郡の立場では、上昇は(頭高型を除けば)全ての文節にデフォルトで存在するものであり、特定の条件下で(具体的には、複数の文節からなる音調句において2番目以降の文節において)弱化によって目立たなくなるのだと解釈するのです。

音調句形成・アクセント句形成

「句頭の音調」のセクションでみたように、複数の文節からなる発話において、同じ文節の連鎖であっても音調句・アクセント句の形成のされ方は一定ではありません。例えば、「あの豆が」を例にとれば、全体を一つの音調句・アクセント句とすることもあれば、「あの」と「豆が」が独立した音調句・アクセント句となることもあります。

句がどのように形成されるかは、句形成(phrasing)と呼ばれます。音調句に関する句形成は音調句形成、アクセント句に関する句形成はアクセント句形成と呼ぶことができます。

音調句形成・アクセント句形成には、様々な要因がかかわります。特に、統語論・意味論との関係はさかんに議論されています。これについては、あとのページで説明するダウンステップについても言えることであるため、あとのページで改めて説明したいと思います。

参照文献

川上蓁 (1957)「準アクセントについて」『国語研究』7.(川上蓁 1995 『日本語アクセント論集』汲古書院に再収録)[Amazonリンク]

川上蓁 (1961)「言葉の切れ目と音調」『国学院雑誌』62-5.(川上蓁 1995 『日本語アクセント論集』汲古書院に再収録)[Amazonリンク]

郡史郎 (2004) 「東京アクセントの特徴再考―語頭の上昇の扱いについて―」『国語学』, 55(2), 16–31.[国語学全文データベース]

Pierrehumbert, J. & M.E. Beckman (1988) Japanese tone structure. Cambridge, MA: MIT Press.[Amazonリンク]

上野善道 (2002) 「アクセント記述の方法」飛田良文・佐藤武義 編『現代日本語講座 第3巻 発音』明治書院. [Amazonリンク]