前のページでは東京式アクセントの特徴について見てきました。このページでは、日本語諸方言のうちでも、東京式とは異なる特徴を持つ方言のアクセントを見ていきます。なお、前のページでも見たように、「アクセント」という概念には様々な定義があります。このページで扱う特徴を「アクセント」と呼びうるかについても研究者によって見解が分かれるのですが、ここでは便宜上アクセントの一種とみなして話を進めていきます。
本題の前に:言語の系統論と類型論
方言アクセントの話に入る前に、複数の言語や方言の共通点や相違点を見ていくときの二つの観点として、系統論と類型論の違いを抑えておきたいと思います。
言語は常に変化します。一つの言語をとっても、現代と数百年前とでは、特徴が大きく異なるというのは、珍しいことではありません。言語はまた、分岐することがあります。ある言語コミュニティAの中の一群が別の土地に集団で移住したとしましょう。そして、Aのコミュニティと、移住先のコミュニティ(これをBと呼ぶことにします)が、互いにほとんど交流することなく、数百年が過ぎたとしましょう。Aの言語もBの言語もそれぞれに変化をするので、もともと同じ言語だったとしても、数百年も経てば互いに通じないくらい異なる言語になっていてもおかしくありません。つまり、もともと一つの言語だったものが、A語とB語に分岐するのです。ただ、かつては同じ言語であったので、共通する特徴もまた残っているはずです。
現代の視点からみると、かつて言語コミュニティがどのように移動し、複数の言語がどう分岐してきたのかは、直接的には知ることができません。ただ、現代の言語や、過去の言語の記録から、その特徴を比較し、これとこれは共通の祖先を持っていたに違いないと推測することはできます。言語のうちでも比較言語学(comparative linguistics)という分野は、そのようにして言語の系統関係を明らかにし、言語の歴史を明らかにしようとしています。
複数の言語を比べるときに、共通の祖先からの分岐したのかどうかに関心があって比べようとするならば、それは系統論的な視点ということができます。
一方で、言語は系統的に関係がなくても似た特徴を持つことがあります。例えば、言語の語順にはSVO、SOVなど様々な語順がありますが、系統論的に無関係な言語であっても似た語順をとることがあるし、反対に系統論的に近い言語であっても語順の特徴が異なることがあります。系統論とは別の関心として言語の特徴の共通点や相違点を探る場合、それは類型論的な視点ということができます。
さて、日本語の方言には様々なアクセントの特徴があります。それらの特徴は、類型論的にも系統論的にも捉えることができます。
類型論的に見た日本語諸方言のアクセント
類型論的に見て東京と大きく異なるアクセントの特徴を持つ方言として、ここでは鹿児島方言と京都・大阪方言(京阪式アクセント)を取り上げます。
鹿児島方言のアクセント
| 1音節語 | 2音節語 | 3音節語 | |
| A型 | 戸(ト) F | 鼻(ハナ) HL | 小麦(コムギ) LHL |
| B型 | 手(テ) H | 肩(カタ) LH | 病(ヤマイ) LLH |
この表は鹿児島方言のアクセントのパターンを示しています。
モーラ数が増えるにつれて可能なアクセントパターンが増える東京式アクセントとは異なり、鹿児島方言のアクセントは、音節数がいくつであっても可能なパターンは二つしかありません(なお、鹿児島方言のアクセントの分析においては、モーラではなく音節が単位となることが知られています)。この二つのパターンはしばしば、A型、B型と呼ばれます。
- A型:後ろか2音節目が高く、最終音節が低いパターン。1音節語の場合には、音節内で下降調が生じます。
- B型:最終音節が高いパターン。
鹿児島方言のアクセントは、助詞をつけた場合の特徴も東京式アクセントと異なります。例えば、助詞「が」をつけた場合のパターンは次のようになります。
- A型:戸が HL、鼻が LHL、小麦が LLHL
- B型:手が LH、肩が LLH、病が LLLH
先の表と比べると、Hの位置が右に移動していることがわかります。これは、鹿児島方言において、それぞれの型が文節を単位として一定のパターンをとろうとしているのだとみることができます。つまり、A型は文節の後ろから2番目の音節を高くする特徴を持つので、単語に助詞をつけることで文節が長くなれば、Hの位置が右に移動するということです。B型についても同様です。
京都・大阪方言のアクセント(京阪式アクセント)
| 1モーラ語 | 2モーラ語 | 3モーラ語 | ||
| 高起式 | 有核 | 蜜柑(ミカン) HLL | ||
| 高起式 | 有核 | 日(ヒ)~日が F ~ HL | 山(ヤマ) HL | 詐欺師(サギシ) HHL |
| 高起式 | 無核 | 蚊(カ) H | 風(カゼ) HH | 魚(サカナ) HHH |
| 低起式 | 有核 | 苺(イチゴ) LHL | ||
| 低起式 | 有核 | 春(ハル)~春が LF ~ LHL | 燐寸(マッチ)~燐寸が LLF ~ LLHL | |
| 低起式 | 無核 | 手(テ)~手が R ~ LH | 空(ソラ)~空が LH ~ LLH | 野菜(ヤサイ)~野菜が LLH ~ LLLH |
この表は京都方言のアクセントのパターンを示しています。
この方言のアクセントは、東京式アクセントと同様にピッチの下がり目に注目することができます。そして、東京式と同様に下がり目の直前のモーラにアクセント核があると仮定し、アクセント核を有する有核とアクセント核を有さない無核とに分類することができます。
一方で、この方言のアクセントには東京式アクセントとの大きな違いがあります。それは、高い音調から始まるタイプと、低い音調から始まるタイプがあるということです。この二つのタイプはしばしば、「高起式」「低起式」と呼ばれます。
つまり、京都方言のアクセントは、アクセント核(有無および置かれる位置)と式(高起式か低起式か)の組み合わせとして分析することができます。
京都方言のほかに大阪方言など、近畿地方の多くの方言が似たような特徴を持っています。このようなタイプのアクセントは、「京阪式アクセント」と呼ばれます。
無アクセント方言
日本語諸方言の中には、プロソディーが語の弁別に関与しない(つまり、「雨」「飴」や「箸」「橋」「端」をプロソディーで区別しない)方言があります。これらは「無アクセント方言」と呼ばれることがあります。例えば、福島市、福井市、熊本市などの方言は、伝統的には無アクセント方言だと言われています。
なお、プロソディーが語の弁別に関与しない方言であっても、都城方言(宮崎県)のように、文節単位で一定のパターンをとる(都城方言の場合、文節末が常に高くなる)方言もあります。上野(1989)は、このような方言を無アクセント方言とは区別し、「一型アクセント」(いっけいあくせんと)と呼んでいます。
日本語諸方言のアクセントの類型論
前のページで東京方言のアクセントを見てきたのに続き、ここでは鹿児島方言と京都・大阪方言をみてきました。これらの方言のほかにも日本語には様々な方言があり、様々なアクセントの特徴を持っています。
日本語諸方言のアクセントをめぐっては(あるいは、それを「アクセント」と呼ぶかどうかも含め)、様々な類型論的な議論がなされてきました。ここでは、代表的な立場として、上野善道と早田輝洋の立場を取り上げます。なお、二人の代表的な論考としては上野(1989)と早田(1999)がありますので、詳細はそれらの論考を参考にしてください。
上野は日本語諸方言のアクセントを分類する中で、まず「有アクセント」と「無アクセント」に大別した上で、有アクセントをさらに「多型アクセント」(たけいあくせんと)と「N型アクセント」(えぬけいあくせんと)に分類しました。前者は単語のモーラ(または音節)が多くなるとアクセントの型も増えるタイプのアクセント体系であり、後者は単語のモーラ・音節数によらず可能なアクセントの型が一定のアクセント体系を指します。東京式、京阪式アクセントは前者であり、鹿児島方言のアクセントは後者に分類されます。鹿児島方言の場合、可能なアクセントの型は常に「2」であるため、N型アクセントのうちでも二型アクセント(にけいあくせんと)と呼ばれます。
一方、早田は、鹿児島方言のA型/B型のようなものを「語声調」と呼びました。上野が「アクセント核」と呼ぶものを早田は「アクセント」と呼びますが、鹿児島方言のA型/B型はアクセントではなく、声調の一種としての語声調とみなしたのです。中国語が音節を単位として4通りの声調を持つように、鹿児島方言は語を単位として2通りの声調を持つというのが、早田の考え方です。さらに早田は、京阪式アクセントの式も語声調とみなしました。早田の見解に従えば、京阪式は語声調に(早田の言うところの)アクセントが載ったものだということになります。
なお、日本語諸方言や、日本語を含め世界の諸言語のアクセント・(単語レベルの)プロソディーについての類型論の試みは、近年も続いています。例えば、Igarashi (2012) は、上述の上野や早田の議論の延長線上で、日本語以外の言語の視点や句レベルのプロソディーの視点も加え、新たな類型化を試みています。
系統論的に見た日本語のアクセント
「類」と「類別語彙」
ここまで現代諸方言のアクセントについて見てきましたが、昔の日本語がどのようなアクセントであったかについても、文献から窺い知ることができます。例えば、平安時代末期の漢和辞典である『類聚名義抄』(るいじゅみょうぎしょう)には、「声点」(しょうてん)と呼ばれる高さを示す点がふられており、この声点が当時のアクセントを知る手がかりになります。
- 類聚名義抄(国立公文書館デジタルアーカイブ)

(Wikimedia Commonsより)
興味深いことに、『類聚名義抄』をはじめとする文献から推測される昔の日本語のアクセントは、現代諸方言のアクセントと一定の対応関係があることが知られています。
さて、日本語のアクセントの歴史的変化やアクセント体系の分岐について調べていく上では、「類」や「類別語彙」が重要な役割を果たしています。これについて、上野(2006)は次のように述べています。
日本語のアクセント史を考える上で必要不可欠な概念として「類別語彙」がある。現代諸方言と文献資料(とりわけ、平安末期の漢和辞典である『類聚名義抄』の声点表示)における単語アクセントの対応に基づいて祖体系に立てられるアクセントの対立グループを「類」と呼ぶが、その所属語彙(その対応を実現している単語)が「類別語彙」である。
上野(2006:2-3)
なお、金田一春彦が類の取りまとめに大きく貢献したことから、「類」は「金田一の類」や「金田一語類」と呼ばれることもあります。
さて、類と類別語彙をまとめたのが以下の表です。
| 1拍名詞 | 2拍名詞 | 3拍名詞 | |
| 第1類 | 柄、蚊、血、戸 | 風、鳥、庭、鼻 | 鰯、形、煙、車、魚 |
| 第2類 | 名、葉、日、藻 | 石、音、紙、川 | 小豆、毛抜、二つ、夕 |
| 第3類 | 木、手、火、目 | 犬、色、花、山 | (小麦、力、二十歳) |
| 第4類 | 息、笠、空、松 | 頭、男、刀、光 | |
| 第5類 | 秋、雨、猿、鍋 | 朝日、命、姿、涙 | |
| 第6類 | 兎、鰻、狐、蓬 | ||
| 第7類 | 苺、蚕、兜、畑 |
上の引用のように、類は祖体系に立てられるアクセントの対立グループを意味します。つまり、昔の日本語においては、ここに示されるように、1モーラ(1拍)語では三つ、2モーラ語では5つ、3モーラ語では7つの型があったと推定されます。
この類と現代日本語の対応関係を見てみましょう。2モーラ名詞の第1類から第5類について、現代の東京式アクセントでは次のように発音されます。(括弧内は助詞を付けた場合の助詞の音調を示します。)
- 第1類(風、鳥、…):平板型 LH(H)
- 第2類(石、音、…):尾高型 LH(L)
- 第3類(犬、色、…):尾高型 LH(L)
- 第4類(息、笠、…):頭高型 HL(L)
- 第5類(秋、雨、…):頭高型 HL(L)
つまり、現代の東京式アクセントでは第2類と第3類、第4類と第5類がそれぞれ合流していると解釈できます。
どの類が合流しているかは、方言によって異なります。いくつかの方言における2モーラ語の類の合流の仕方を示すと、以下のようになります(松森他 2012: 191-192にもとづく)。(なお、スラッシュは合流していないところを示します。つまり、「I,II/III」という表記は、第1類と第2類が合流し、第3類は合流していないことを示します。)
- 東京、広島:I / II, III / IV, V
- 京都、高知:I / II, III / IV / V
- 大分:I, II / III / IV, V
- 鹿児島:I, II / III, IV, V
諸方言の合流の仕方を比較することは、諸方言の分岐の歴史を知る手がかりになります。
学習案内
松森晶子・新田哲夫・木部暢子・中井幸比古 編著(2012)『日本語アクセント入門』三省堂. [Amazonリンク]
Igarashi, Y., et al. eds. (2026) Word-prosodic systems of Japonic languages. Leiden: Brill. [Amazonリンク] [出版社リンク]
参照文献
上野善道(1989)「日本語のアクセント」杉藤美代子(編)『講座日本語と日本語教育2 日本語の音声・音韻(上)』pp. 178–205. 明治書院. [Amazonリンク]
上野善道(2006)「日本語アクセントの再建」『言語研究』160, 1-42. [論文リンク]
早田輝洋(1999)『音調のタイポロジー』大修館書店. [Amazonリンク]
平山輝男編(1960)『全国アクセント辞典』東京堂出版. [Amazonリンク]
松森晶子・新田哲夫・木部暢子・中井幸比古 編著(2012)『日本語アクセント入門』三省堂. [Amazonリンク]
Igarashi, Y. (2012). Prosodic typology in Japanese dialects from a cross-linguistic perspective. Lingua, 122(13), 1441–1453. [論文リンク]