「アクセント」という用語は音声学・音韻論において様々な定義のされ方がありますが、ここでは語の弁別にかかわるピッチの特徴を「アクセント」と呼ぶことにします。(このページの最後では、別の定義も取り上げます。)
このページでは、日本語のアクセントについて学びます。ただし、日本語のアクセントは地域によって様々な違いがあるため、ここでは東京や首都圏を中心に用いられるアクセント(いわゆる「東京式アクセント」)に限定して、その基本的な仕組みを学びます。
東京式アクセントに関して考えてみよう
問題1
以下の各単語を東京方言で発音するとき、互いに同じようなピッチパターンで発音されると感じられる単語もあれば、そうでないものもある。同じようなピッチパターンで発音されると感じられる単語にグループ分けしなさい。
- 眼鏡
- 飲み屋
- 煮物
- ウサギ
- カラス
- おもちゃ
- 緑
- 北区
- 鉛
- スズメ
- 涙
- 長野
これらをグループ分けすると、以下のようになります。(+をクリックすると解答例が表示されます。
- 第一モーラが高い:眼鏡、カラス、緑、涙、長野
- 第二モーラが高い:飲み屋、おもちゃ、北区
- 第二モーラ~第三モーラが高い:煮物、ウサギ、鉛、スズメ
では、次の問題について考えてみましょう。
問題2
次のグループAとグループBには、アクセントに関して何か違いがあるでしょうか。どのような違いがあるか答えなさい。
【グループA】
- 訛り
- 男
- 余り
- 流れ
【グループB】
- 煮物
- ウサギ
- 鉛
- スズメ
グループAとグループBには次のような違いがあります。(+をクリックすると解答例が表示されます。)
グループA:助詞をつけたときに、助詞でピッチが下がる
グループB:助詞をつけたときに、助詞でピッチが下がらず、高く続く
(なお、助詞をつけなくてもグループAとグループBのピッチパターンが区別できるかは、議論が分かれるところです。)
アクセントの型とfoパターン
ここまで3モーラ語(つまり、三つのモーラからなる語)の例を見てきましたが、3モーラ語はアクセントに関して4通りの型があります。4通りの型の例を挙げると以下の通りです。(なお、問題2の解答例で述べたように、助詞がつくことで型の区別が明確になるケースがあるので、ここでは助詞を括弧つきで示しています。)
- 眼鏡(が)
- 飲み屋(が)
- 訛り(が)
- 煮物(が)
これらについて、ピッチ(高さ)に対応する音響指標であるfo(基本周波数)のパターンを表示させたのが、以下の図です。(各図において、初頭モーラ内に現れる下降はあまり重要ではないので、ここではひとまず無視してください。)
(1) メガネガ(眼鏡が)
への字型パターンのピークが前の方に現れています。なお、感覚的には「メ」が高いように感じられがちですが、物理的なピークとその直後の下降は「メ」よりも多少後ろに生じいます。このような現象は「おそ下がり」と呼ばれます(杉藤 1982、など)。

(2) ノミヤガ(飲み屋が)
第1モーラの「ノ」で底点が現れたのちに上昇します。ピークの位置は上の (1) 「メガネガ」の場合よりもやや後ろに現れています。(ここでもやはり「おそ下がり」が生じています。つまり、感覚的なピークは「ミ」に感じられがちですが、物理的にはそれよりやや後ろにピークがあります。)

(3) ナマリガ(訛りが)
ここでもやはり、第1モーラに底点が現れています。助詞「ガ」の直前でfo下降が始まっています。

(4) ニモノガ(煮物が)
ここでもやはり、第1モーラに底点が現れています。(3) 「ナマリガ」とは異なり、助詞の直前で下降が現れていません。

さて、ここまで3モーラ語に助詞をつけたパターンを見てきましたが、他のモーラ数の単語にはいくつの型があるでしょうか?
東京式アクセントの特徴
アクセントの型
東京式アクセントでは、単語のモーラ数よりも一つ多い数の型があります。例えば、1モーラ語には2通りの型があり、2モーラ語には3通りの型があります。これについて、日本語のアクセント研究ではしばしば、「Nモーラ語にはN+1通りの型がある」という表現がされます。(ただし、モーラ数が多い、つまり長い語になると、N+1通りの型を見つけるのは容易ではなくなります。)
型の区別はまず、(助詞をつけた場合も考慮に入れた上で)下降の有無によってなされます。上の例では、(1) 「眼鏡」、(2) 「飲み屋」、(3) 「訛り」は下降があり、(4) 「煮物」は下降がありません。下降が有る型は「有核」と呼ばれ、下降が無い型は「無核」ないし「平板」と呼ばれます。
有核の型はさらに、下降の位置によって区別されます。(1) 「眼鏡」は第1モーラの直後、(2) 「飲み屋」は第2モーラの直後、(3) 「訛り」は第3モーラの直後に現れるものとみなされます。(物理的には、上で「おそ下がり」として説明したように、下降が遅めに現れることがありますが、アクセントの音韻論的解釈は、感覚的な下降の位置にもとづいてなされます。)なお、第1モーラの直後で下降する型は「頭高型」(あたまだかがた)、最終モーラの直後で下降する型は「尾高型」(おだかがた)、その間のモーラで下降する型は「中高型」(なかだかがた)と呼ばれることがあります。「訛り」~「訛りが」のように、尾高型の語は助詞をつけなければ下降が現れず、助詞をつけた場合に助詞の直前で下降が現れます。
以下の表は、1モーラ語から3モーラ語の各型の例を示しています。ここでマイナスで示した数字は、語の後ろから何番目のモーラの直後に下降が現れるかを示しています。例えば、「飲み屋」は(助詞を除けば)後ろから2番目のモーラ「ミ」の直後に下降が現れるため、-2の列に示しています。
| -3 | -2 | -1 | 無核(平板) | |
| 1モーラ語 | メ(ガ) (目が) | ミ(ガ) (実が) | ||
| 2モーラ語 | アメ(ガ) (雨が) | マメ(ガ) (豆が) | アメ(ガ) (飴が) | |
| 3モーラ語 | メガネ(ガ) (眼鏡が) | ノミヤ(ガ) (飲み屋が) | ナマリ(ガ) (訛りが) | ニモノ(ガ) (煮物が) |
アクセント核
東京式アクセントの音韻論的分析では、下降の直前のモーラに注目することが一般的です。そして、下降の直前のモーラに「アクセント核」(accent kernel)が置かれているのだと解釈します。なお、これを「アクセント核」ではなく「アクセント」(accent)と呼ぶ研究者もいます(例えば、早田 1999)。(このページの冒頭で、「語の弁別にかかわるピッチの特徴を「アクセント」と呼ぶ」と述べましたが、早田らの「アクセント」の定義はこれと異なるということに注意しましょう。)
東京式アクセントにおいては、有核の単語は、語を構成するモーラのどこか一つに必ずアクセント(核)が置かれることになります。だから、Nモーラ語の場合に、有核語にはN通りの型があり、これに無核語が加わるので、N+1通りの型があることになるのです。
形状
アクセント(核)の有無にかかわらず、東京式アクセントでは、単語を単独で発音したときに、頭高型を除けば、第1モーラから第2モーラにかけてfoの上昇が現れます。頭高型の場合には、比較的高めの開始点からの小さな上昇が、第1モーラの内部に現れることが一般的です。なお、上で「単語を単独で発音したとき」と但し書きをつけましたが、「単語を単独で発音したとき」以外では上昇は現れないことがあります。様々な文において単語のピッチがどう現れるかをふまえるならば、「句頭上昇」という捉え方が適切なのですが、これについては別のページで説明します。
上昇の後は、第2モーラからアクセント(核)の置かれたモーラまで高く平坦に続きがちです。例えば、「南浦和駅」(ミナミウラワエキ)は東京式アクセントでは「ワ」にアクセント(核)が置かれ、第2モーラの「ナ」から第6モーラの「ワ」までは高く平坦なfo形状となる傾向にあります(下図)。
ミナミウラワエキ(南浦和駅)
第2モーラの「ナ」から第6モーラの「ワ」までが高く平らに続いています。なお、「キ」の子音 /k/ は無声子音のため、foが出ていません。

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松森晶子・新田哲夫・木部暢子・中井幸比古 編著(2012)『日本語アクセント入門』三省堂.【第1章 アクセントとは何か、第2章 アクセントのしくみ】[Amazonリンク]
参照文献
早田輝洋 (1999) 『音調のタイポロジー』大修館書店. [Amazonリンク]
杉藤美代子 (1982) 『日本語アクセントの研究』三省堂.