母音の長短


ː

半長
ˑ

母音は長く発音されたり短く発音されたりすることがあります。長く発音される特徴を示すために、補助記号 [ː] が用意されています。なお、補助記号を用いるかわりに、文字を二つ重ねて(例えば、 [aa] のように)表記されることもあります。長音の記号 [ː] のほかに、IPAには半長音 [ˑ] の記号も用意されています。

日本語には母音の長短の対立があります。例えば、「おばさん」の「ば」が [ba] のように発音されるのに対し、「おばあさん」の「ばあ」は [baː] のように発音されます。

日本語のように母音の長さが二段階のレベルを持つ(つまり、長母音と短母音を持つ)言語は、珍しくありません。一方、母音の長さが三段階のレベルを持つ言語は珍しいのですが、エストニア語がそうだと言われています。以下の動画の音声を聞いてみましょう。

参考動画

Estonian three-way vocalic quantity contrast between the words kalu-kaalu-kaalu (University of Tartu Phonetics Lab)

子音の長短

母音に長短があるように、子音にも長短があることがあります。長子音に対して用いる記号は、長母音と同じ [ː] です。

長子音についても、日本語を例として挙げることができます。以下の単語は、どこが長くなっているでしょうか?

  • 「一家」
  • 「行った」
  • 「一杯」
  • 「あっさり」

まず、「一家」の「か」の子音は、破裂音の [k] です。破裂音は、閉鎖(この場合、軟口蓋と後舌が接触している時間)と、その開放(後舌が軟口蓋から離れるという調音動作)により成り立っています。「いっか」というときには、このうち閉鎖の時間が長くなります。開放は瞬間的なので、長くなるわけではありません。「行った」「一杯」も同様です。一方、「あっさり」のような摩擦音では、[s] の摩擦の時間が長くなります。

日本語において促音「ッ」を伴う単語は、長子音を伴う単語だということができます。日本語母語話者にふだん何気なく長子音と短子音を区別していますが、子音の長短の対立を持つ言語は、世界の言語を見渡すと実はそれほど多いわけではありません。日本語以外だと、フィンランド語やエストニア語の例がよく知られています。

なお、エストニア語は、母音の長さが三段階のレベルを持つだけでなく、子音についても三段階の長さのレベルを持っています。以下の動画の音声を聞いてみましょう。

参考動画

Estonian three-way consonant quantity contrast between the words kala-kalla-kalla (University of Tartu Phonetics Lab)