単音(分節音)

音声を時間軸で切り分けていくことを考えてみましょう。たとえば、「雨」(アメ)という単語はどのように分けることができるでしょうか?「ア」(a)と「メ」(me)に分けられる、というのが一つの答えです。さらに細かく分けるとすると、「メ」はさらに、[m] と [e] に分けることができます。

これら [a, m, e] はそれぞれ、異なる音色(timbre)を持っています。このように、音声を時間軸上で音色の特徴をもとに切り分けていった最小の単位を「単音」(phone)といいます。

それぞれの単音は、もっと細かく分けることもできないわけではありません。例えば、[a] の前半と後半というようにです。しかし、[a] の前半と後半は音色上の特徴がほぼ同じなので、そこに単音の境界はなく、同一の単音の一部を成すものとみなされます。

なお、単音は「分節音」(segment, phonetic segment)と呼ばれることもあります。

プロソディー(韻律)

では、「雨」と「飴」では何が違うでしょうか。どちらも単音のレベルでは、[a, m, e] という三つの単音から構成されます。しかし、日本語(特に東京・首都圏の発音)では、両者は異なるピッチ(pitch; 高さ)で発音されます。具体的には、「雨」は高いところから下がり、「飴」は低いところから上がります。

音声のうちピッチにかかわる現象は、プロソディーの一種とみなされます。「プロソディー」(prosody)とは、ピッチ(pitch; 高さ)、大きさ(loudness)、長さ(length)の変化によって生み出される音声の諸現象の総称です。(ただし、研究者によってはピッチ・大きさ・長さ以外の要素もプロソディーの構成要素に含めることもあります。)日本語のアクセント(accent)や英語の強勢(stress)などが、プロソディーに含まれます。

なお、プロソディーは「韻律」と呼ばれることもあります。ただし、「韻律」という用語は詩学などの分野では言語学とは異なる意味で用いられることがあるので、注意が必要です。

分節的特徴と超分節的特徴

単音(分節音)の特徴とプロソディーの特徴は、それぞれ「分節的特徴」(segmental features)、「超分節的特徴」(suprasegmental features)と呼ばれます。後者は「韻律的特徴」(prosodic features)とも呼ばれます。なお、「超分節的」という言葉は、単音(分節音)の連鎖の上に覆いかぶさる特徴というイメージから来ています。